北がわ一雄|KAZUO KITAGAWA

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北側  これは本っても予期しない死です。心残りがいっぱいある中で死んでしまうことを考えると、がんというのは、死に直面しながらも大切な最後の数年間を送ることができるといえるかもしれませんね。

中川  ですから、緩和ケアというのは、その方の人生を大きく左右する。今の日本は3人に1人ががんで死んでいますから、3人に1人は確実に緩和ケアが必要です。緩和ケアというのは、限られた末期の患者の痛みを止めるのではなくて、日本人全体の問題になっているといえます。
もう一つは、世界史的にみても、こんなにもがんで死ぬ国はなかったわけです。要は日本人が長生きした証拠です。

北側  高齢化に伴って、がんが増えてくるという関係をもう少し、詳しく話していただけますか。

中川  北側幹事長の体の中にも、私の体の中にもがん細胞がいます。およそ5000個くらいのがん細胞が毎日できています。細胞分裂の失敗ががんですが、これをその場で殺すシステムが免疫です。リンパ球などががん細胞に取り付いて殺してしまう。毎日毎日、5000勝0敗で免疫が勝っている。ところが、80年も100年も免疫が勝ち続けられるかというと、どこかでミスして負けてしまう。ですから、日本人は皆が皆、がんになるほど長生きするようになったといえます。

北側  なるほど。また、がんの種類も大きく変わってきているといわれています。

中川  昨年(2005年)のデータで、死亡が減っているがんは、胃がん、子宮頸がん、肝臓がん。胃がんは雑菌、子宮頸がんは95%がウイルス感染が原因、肝臓がんは8割が肝炎ウイルスです。今、これらの感染症型のがんが減って、増えているのは肺がん、前立腺がん、乳がん、大腸がんなど。これらは、たばこと過剰な動物性脂肪などが原因です。アメリカ人と同じような食生活をしていれば、同じ種類のがんが増える。私はこれを「がんの欧米化」と言っています。

北側  がんの欧米化ですか。

中川  これが、実は放射線治療と少し関係があります。
例えば、昭和35年(1960年)の時点だと、男性のがん死亡の3分の2が胃がんでした。ですから「日本人のがん=胃がん」。胃がんの治療は手術しかありませんから、結果的にがんの治療は手術になったんです。
ところが、日本でも胃がんが減って肺がんなどが増え、日本のがんは欧米型に向かっています。欧米での放射線治療の割合は、アメリカで66%、イギリスで56%、ドイツで60%。日本はおよそ25%と非常に少ない。がんが欧米化すれば、欧米型の治療の普及が必要なのです。

北側  放射線治療というのは末期の方が、終末期の場面で使う医療だという意識が強かったのですが。

中川   末期がん患者にも使えるほど体への負担がないということです。末期のがん患者は放っておけばよいのかというと、そうではありません。今、申し上げた2年間なら2年間をどのように素晴らしい時間にするのかという点では、治らなくてもその方らしく生きることができるようにして差し上げることが非常に重要なのです。

北側  患者の側から言うと、いざ、がんになって手術がいいのか、放射線治療がいいのか、その選択がきちんとできるような情報を提供していただくことが大事です。

中川  それはがん対策基本法の中にも情報提供というのがあります。ただ問題は、政府が仕組みを作っても、国民の側に、がんというものに耳を貸したくないというところがあることです。
突然、がんだと言われれば大きく動揺します。そうすると、車を買う時と同じようにはできない。即手術と言われても、車のセールスマンに勧められた時と同じように、「きょうは失礼します」「一晩頭冷やして考えます」と言って帰ればいいんです。治す方法は手術か放射線しかないんですから。
今度は放射線の方に行って、そこでまた話を聞く。自分でカタログを見比べて、車と同じように治療を選択できる。そのためには、命に限りがあるんだということを分かってないと、平常心を保ってきちんとした選択ができないんです。

北側  そんな時、放射線の専門医のところにも相談に行けますか。

中川  行けます。最近徐々にそういう風になっています。がん対策基本法の中にもセカンドオピニオンを受ける権利が明記されています。
ただ誤解を与えたくないのは、何でもかんでも放射線がいいわけではありません。例えば、胃がんなどは手術が良いのです。一方で、手術と放射線が同じ治療効果というのはたくさんあります。例えば喉頭がんは、放射線でも手術でも同じです。乳がんなども昔は根こそぎ取っていましたが、今は、少し取って放射線をかければ乳房が温存できる。前立腺がんなども効力は同じです。

北側  いずれがんで亡くなる人が2人に1人に近づくということですから、日本人の死とがんというのは非常に関係があります。

中川  ただ、死というものが、いつの間にか、日本人の生活や心の中からなくなっている。

北側  これは非常に大事な問題だと思います。今は人の死を直接見る場面が減っています。昔は3世代で住んでいるのが普通で、おじいちゃんやおばあちゃんの死に目を看取るという場面も割と日常的にあったものです。

中川  ものすごく大事なことですね。がんに関して言うと、病院での死亡が93%です。特に、東京のような都市部ではおそらく100%近くが病院で亡くなっています。子どもが親しんでいる死というのは、簡単に人がバンバン殺されるテレビゲームなどで、死んでもリセットするとまた生き返ってくる。現代では死というものが非常にバーチャルになっている気がします。

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